『原発大国フランスからの警告』山口昌子著(ワニブックス「PLUS」新書)を読んでいて、「あれっ」と思った記述がありました。
それは、1995年の阪神淡路大震災に際してのフランスの救助犬派遣申し出についての記述です。
私の認識として、いち早くヨーロッパが救助犬の派遣を申し出たのに日本政府がそれを断ったということ(その後に村山首相が現地へ行ったのがあまりに遅かったので「犬より遅い村山総理」と揶揄された)が記憶に残っています。
では、何故、せっかくのフランスの申し出を断ったのでしょうか?
それについて、当時自治大臣だった野中広務氏は次の発言をしていることで、私は了解しています。
『スイス犬が海外からやってくるという話も弱った。犬一頭にドイツ語とフランス語の通訳をつけてくれと。おまけにお犬様と通訳が泊まるところをつくれ、でしょ。人間がちゃんと寝るところさえなくて、あの寒い中をテントで皆寝ているのにだよ。しかし、どうして海外からの援助を受け入れないのかというマスコミからの集中砲火と国民の世論の批判を浴びて、五頭だけ受けいれはしました。』(『差別と日本人』野中広務・辛淑玉著・角川ONEテーマ21新書)
野中氏の発言は、『お犬様』といった救助犬に対する偏見めいた発言もありますが、それよりもどうも腑に落ちない内容です。地震という異常な状況下にあって、スイスの救援隊が本当に通訳とか宿舎の要請をしたのでしょうか?私にはどうも不自然に思えるのです。
先の『原発大国フランスからの警告』にはこういう記述があります。
『フランス側は「救援隊に通訳は無用だ。宿舎など用意する必要もない。われわれは被災地に行くのだ。観光に行くわけではない。どんな環境、状況にも耐えられる訓練をしている。犬も同様だ」と日本当局を説得して、やっと入国が許可された経緯がある。』
スイス犬とフレンチ・ドッグの違いがあるものの、私にはフランス側の発言の方が正しいように思えてなりません。
言うまでもなく、救助犬は今ではごく普通に世界各地で活躍しています。実際、チリでもペルーでもアルジェリアでもヨーロッパから救助犬が派遣されました。
もし、野中発言が正しいとすれば、これほどの活躍ができるはずがありません。大災害のときに通訳を出せ宿舎を用意せよと言われれば、日本でなくともどんな国であっても受け入れ自体が不可能です。
したがって、野中氏の発言はどうも信じられませんし、もっと言うと、私はむしろ野中氏が嘘をついているというよりも野中氏に情報をあげた何者か(あるいは集団)がどうも怪しいと思っています。