月別アーカイブ: 5月 2010

税率は現実の鏡(第376回)

民主党が消費税の増税を言い始めた。
新聞やテレビの論調においても消費税増税やむなしという声が強まっているように見える。
しかし、この問題はそれこそ徹底した議論が大前提であることは言うまでもない。
単純に言って消費税論議は2段階に分かれる。
第一段階は、「増税するか、しないか」である。
第二段階は、仮に「増税する」とした場合に、その税率をどうするかという問題である。
第一の段階で、「増税やむなし」と思っている人たちもそれぞれの考えている税率はばらばらのはずだ。
すなわち、「10%以下ならやむなし」と考えている人は「20%なら反対」という人というわけである。
第一段階はクリアできても、この第二段階の意見の収斂は極めて難しい。
現在の税制によって40兆円ほどの税収がある。
消費税が何%あがれば何兆円の税収があがるかは景気に左右されるとはいえ単純な計算である。
そして、プライマリーバランス黒字を念頭に置けばどれだけの税収が必要かという計算も簡単にできてしまう。
それを消費税率に置き換えれば、わが国社会の現実が明瞭になる。
これは途方も無くきつい現実だ。
この現実を回避するためには、いよいよ制度改革ということになるがこれも政治的に非常に難しい。
ユーロ圏では出来たではないかという意見もあるだろう。たとえばイタリアに出来たのだから日本にだって出来るという意見である。
しかし、それは『(他のEU諸国の)外圧があったからできた』のであり、むしろ自らは実現できなかった証左でもある。
民主党閣僚の増税発言が本当にそこまで考えてのものとはとても思えない。
単に財務省に吹き込まれたことを右から左にしゃべっているとしか思えないのである。

成長戦略に必要なもの3%(第375回)

これから参議院選挙へ向けて各党のマニフェストが打ち出されてくる。
民主党の前回の衆議院選マニフェストには成長戦略がすっぽり抜け落ちており、その点を厳しく批判されたことは記憶に新しい。
わが党は、すでに短期と中長期とに分けた成長戦略を発表したところであるが、民主党はどうだろうか。
さて、成長戦略に必要なものは何かといえば、私はリアリティーだと思う。
国民の皆さんにどれだけリアリティを持ってもらえるかがすべての鍵だと思うのである。
たとえば昨年末に民主党が掲げた2020年までの目標のなかに次のような記述がある。
環境・エネルギー『新規市場50兆円超、新規雇用140万人』
健康(医療・介護)『新規市場45兆円、新規事業280万人』
これらに対して国民はどれほどリアリティーを感じただろうか?
ピンときた人がどれだけいただろうか?
たとえば健康の方の45兆円を280万人で割ると一人当たり1600万円となる。
実際の平均的な給与を仮に400万円とすると労働分配率は25%となるが、私の感覚ではこの分野はもっともっと労働集約的である。
すると、この給与は実は1000万円とかを想定しているのだろうか?
すると介護分野よりもはるかに医療分野が多いとか?
やはりどう考えてもリアリティがわかないのである。
環境・エネルギー分野のほうはさらにさらにどういう計算でこうなるのか分からない。
結局、リアリティのわかないものは絵空事としか思えないのであり、「ならば頑張ろう!」という気にはとてもとてもならないのである。
成長戦略は、確かに「書くは易く実現は難し」なのではあるが、政権党の成長戦略がこれではさすがにまずいだろうと思うのである。

口蹄疫対策に関する申し入れ(第374回)

昨日、千葉県知事に対して『口蹄疫対策に関する申し入れ』 を行った。
千葉県も畜産王国の一つである。
しかも、数年間に国内初のBSEの発生という経験もあり、宮崎県の問題はまさに他人事ではない。
ましてや9月に国体、10月に全国障害者スポーツ大会、ツール・ド・ちばが開催されることを考えれば緊急事態ともいえる。
万一、全国から大勢の関係者が集まったときに千葉で発生したとすれば、それは全国への拡散を意味するのである。
以下、申し入れの全文を掲載する。
口蹄疫対策に関する申し入れ
去る4月に発生が確認された家畜伝染病「口蹄疫」の被害は一向に収まる気配を見せないまま、宮崎県から九州全域へと拡大している。風評被害においては全国的な影響もあり、被害総額は160億円を突破した。
看過しえないことは、宮崎県において人と車の移動に自粛を求めざるを得ない状況にあることである。これらは、この9月に「ゆめ半島千葉国体」並びに「全国障害者スポーツ大会」を迎える本県にあって、十二分な備えを固める必要性を物語るものである。
さて、宮崎県によれば、口蹄疫の感染ないし感染の疑いのある牛、豚、ヤギの総数は5月24日までに14万5358頭に上るという。このなかには全国のブランド牛を支える「安平」や「忠富士」も含まれている。
これら丹精こめて育ててきた牛、豚等を殺処分せざるを得ないことは畜産農家にとって言葉に尽くせぬ苦悩であると拝察する。一刻も早くきめ細かな補償と経営再建への不安の払拭がのぞまれるところである。
本県においては、消毒薬である「消石灰」購入費の一部助成を行うこと、県内での口蹄疫発生等に対して消毒薬の備蓄を行うことをすでに決定したことは高く評価するものではあるが、以下の項目についてさらなる対策を講じるよう要望する。

一、 対策組織、危機管理体制の構築を行うこと。
二、 国内畜産史上前例の無い感染拡大に対し、その対策手法の見直しを行うこと。
三、 感染防止のため日常的な自衛防疫体制の強化を図ること。
四、 産業動物医の確保に努めること。
五、 本年9月25日の国体等には全国から多くの人々が来県されることから、口蹄疫の本県への侵入防止に万全を期すこと。
$ふじい弘之 オフィシャルブログ「レポートブログアメーバ版」-口蹄疫申し入れ
(申し入れの様子)

悪しき習慣 打破する側から利用する側へ(第373回)

週刊ダイヤモンド5月29日号の片山善博氏のコラムに驚くべきことが述べられていた。
『ここに一片の通知がある。2010年4月1日付、総務副大臣から各都道府県知事あての「運輸事業振興助成交付金について」である。
内容を要約すれば、各都道府県に入ってくる軽油引取税の税収の一定割合の額を、運輸事業振興助成交付金という名の下に各都道府県にあるトラック協会に交付せよというものである。』
片山氏は、こんな通知があるというのはデマだと思っていたという。
なぜなら
『都道府県が徴収する軽油引取税の税収の一部を誰それに交付せよなどと、総務省が指示あるいは要請することなどもってのほか』
『これまでの地方分権により国と自治体の上下関係は取り払われ、対等の立場にあることが明確にされている。(要旨)』
『鳩山由紀夫首相は、その施政方針演説の中で、「地域主権改革」を「地域のことは、その地域に住む住民が責任を持って決めること」だと定義している。』
『笑ってしまうのは、この通知の末尾に、これは「技術的助言」だと書き添えられていることである。通知は禁止されているが、助言は許されるので、これはあくまで助言だと言い張りたいのだろう。』
『こんな「助言」がまかり通るのなら、闇の世界の人たちが小躍りする。みかじめ料は「助言」に基づいてもらっているし、たとえ恐喝罪で捕まっても、「別に金品を強要したわけではない。単に助言しただけだ」といういいわけも成り立つだろう。』
まったくその通りである。
さて、私が一番気になっているのは片山氏の次の指摘である。
『こんな通知を出した御仁は誰か。じつは、この通知の名義人には「総務副大臣」としか書かれていない。総務省には副大臣が2人おられるが、そのうちのいずれの副大臣かが分からないようにしてあるのである。』
通達行政は、基本的に官僚の行うものであったので、名義人は個人名でなく官職を書くのが一般的である。
官僚ポストはどんどん人が変わっていくので官職でというのは官僚の世界では当たり前とも言える。
一方、このやり方はうまい責任逃れにも見える。今回の通知などまさに誰が出したか分からないようにする狙いとしか思えない。
本来、こうした官僚流の習慣や手法を打破するのが政治主導であろう。
それを打破するのではなく、ちゃっかり使っていしまおうという志の低さが気になるのである。
まるで不正を追及するのではなく、不正をする側についてしまうのだから。原口総務大臣は、この通知は出すべきではないと思っていたという。しかし党から言われて止む無く出したのだという。
そうであれば、むしろ姑息な手段を使わず、名義人をはっきりさせることが党に対する抗議のメッセージであろう。
「政治」が、姑息な手段を利用する側になってしまえばこの国の将来は相当に暗いと見なければなるまい。

内閣の賞味期限(第372回)

一般に、内閣支持率というのは発足直後が一番高い。
その後、じわじわとか、急激にかの差はあるが結局落ちていくもののようである。
したがって、大きな改革、特に制度を抜本的に変えるような政策は支持率の高いうちに行わねばならない。
鉄と同じように政策も熱いうちに打たねばだめ なのだ。
見方によっては、何か政策を打つから支持率が下がるのだという意見もあるかもしれない。
しかし、何もしなければ何もしないなりに批判を受け支持率は下がるのである。
したがって、わが内閣はこれを断行すると表明したら、一気呵成やってしまうのが正しい手法だろう。
それを鮮やかにやって見せたのが小泉内閣の郵政民営化だった。
さて、では鳩山内閣はどうだろうか?発足当時の支持率は60%を越え、常に批判的なマスコミでさえ鳩山内閣に期待を寄せた。
ところが鳩山内閣がまず行ったのはマニフェストの変更であり、政治と金の問題のごまかしだった。
マニフェストには「暫定税率は廃止」と書いてあったが、小沢氏はガソリンの暫定税率維持を強引に決めてしまった。
マニフェストには「天下りの根絶」「渡りの全面禁止」と書いてあったが、天下り・渡りそのものの人たちを日本郵政の社長や副社長に据えた。
マニフェストには「高速道路の無料化」と書いてあったが、ほとんどの人には値上げになる。
これらの公約破りのために貴重な支持率が高かった期間を使ってしまったのである。
実にもったいない話だ。
鳩山内閣の支持率は、すでに20%そこそこである。
何か政策を実現しようとしてもそのエネルギーは期待できない。
一言で言えば『賞味期限切れ内閣』 というわけである。