中学・高校・大学と育ち盛りの時代に親元を離れて下宿生活をしていたので空腹と冬の洗濯には閉口した。
コインランドリーなど無い時代なので、持てる限りの洗濯物を持って学校の第二寮まで30分近く歩く。
この寮の、なぜか吹きっさらしのグランドのまん中に数台の洗濯機が並べてあり、寒風に凍えながら洗濯機を回したものである。
そうしてガチガチになった身体で、濡れた洗濯物をもう一度持って帰るつらさ。
一方の空腹の方は、自分のせいでもあった。
少しでもお金が入ると、私はそれを貧乏一人旅に使ってしまうので食べ物を買う金がなくなってしまうのだ。
そもそも旅館やホテルなどに泊ったことが無い。
一度だけ軽井沢のユースホステルに泊ったことがあるが、あとはすべて野宿や駅の軒先を借りながら文庫本を一冊もって全国を一人で放浪した。
木枯し紋次郎の影響を相当受けているのかもしれない。
さて、貧乏旅行のコツは旅費をいかに安くあげるかである。
学割の2割引と一般周遊券の1割引で合計3割引というのが一つのパターンであった。
いわゆる周遊券では決められた範囲の中しか動けないので、どうしても自由度の高い一般周遊券をつくることになる。
ところが、そのためには交通公社へ行かねばならない。
一番近い立川の交通公社でさえ、学校をサボる以外にいく方法はない。
そこで、申し込みと受け取りの最低2回は学校をサボっていく。
当時は金もないので、国分寺の下宿から立川まで歩いていった。
そのときに、どうしたわけか私は郵便局の通帳を落としてしまったのである。
悪いことは出来ないもので、それで私のサボりが発覚してしまうのだが、通帳を拾ってくれたのが三笠食堂のおばさんだった。
それ以来、国立の駅に近い(確か名画座の裏のほう)この食堂に何度か足を運んだものだが、おばさんはその後どうしているのだろうか?
駅からの近さから考えて食堂が残っているとは考えにくい。
申し訳ないが今となっては顔も思い出せない。
どういうわけだか、青春の一時期に出会った人たちが無性に懐かしく思われる今日この頃である。
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