日別アーカイブ: 2010年4月22日

農業を滅ぼす「ブレ」(第365回)

本年度から実施される米の戸別所得補償モデル事業について県下全域の農家の方々を対象にアンケート調査を実施した。
たとえば、『米の戸別所得補償制度によって農業経営は良くなると思いますか。』
『生産調整が事実上の選択制になったことについてどう思いますか。』
『戸別所得補償制度で農業後継者は増えると思いますか。』
そのほか『農地集積は?』『FTAは?』『米以外の補償は?』といった14項目にわたる課題について、米戸別所得補償制度がどういう影響を及ぼすと考えているかという調査である。
調査の結果、「農地集積が進む」と考えている農家は約2割、「農業経営は良くなる」と考えている農家はわずか8%、「農業後継者は増える」と考えている農家は実に2%という極めて深刻な実態が浮き彫りになった。
農業にとって何より必要なものは『長期ビジョンであって、これ無しでは営農計画も立てられず、農業経営などできるはずもない。

$ふじい弘之 オフィシャルブログ「レポートブログアメーバ版」-記者会見

                (調査結果の記者会見の様子)
高速道路の無償化が典型的な例だ。
民主党はマニフェストでは高速道路の無償化を高らかにうたっていた。
ところが、政権をとると全国の無償化はやめにして、ごくごく限られた遠隔地だけの無償化に方針を変えた。
その後、実は無償化ではなく上限を課す方針になり、さらには無償化が一転して値上げになり、その後やっぱり値上げはおかしいから見直すとし、さらにやっぱり一度決めたことだからと値上げに戻した。
猫の目も追いつかないスピードでみるみる方針や政策を変えていくのである。
このような政策の激しいブレが、高速道路だけではなく、普天間問題や郵政問題、はたまた中小企業への貸付モラトリアム法案など実に多岐に渡っていることを考えれば、農家の皆さんの不安は当然である。
今回のモデル事業では新規需要米(米粉用米や飼料用米など)には10アールあたり8万円という所得補償がなされる。
この補償額なら新規需要米への転作は進むかも知れない。
しかし、転作を進めた挙句に「財源がなくなりました。補償は打ち切ります。」となれば、それこそわが国農業は壊滅的打撃を受ける。
政策を変えるほうはいい加減なのだが、こちらは生活そのものがかかっているのである。それこそ死活問題なのだ。
民主党政権のブレがどれほど国民生活を振り回してきたか、どれほどひどい影響を悪影響を及ぼしてきたか、政権を担う人たちの猛省を促したい。

医師不足の動的平衡論(第364回)

「動的平衡」といえば福岡伸一先生である。生命についての考え方に軽くジャブを放ってくれる。
また、福岡先生の話は説得力がある。(少年時代に松戸にお住まいだったらしいので親近感もある)
動的平衡は当然われわれの社会にも当てはまる考え方だ。
現在という一時点で捉えれば、わが国は「医師不足」社会である。
そこで医学部の定員を増やそうとなるのだが、少数精鋭的育成を必要とする学部なので、その担当教授を確保するためにむしろ医療現場からベテラン医師がとられてしまう。
それでも、やがて医学生が育ってきて医師数が増え始める。
つまり、「医師不足」→「もっとひどい医師不足」→「「医師不足」→「医師増加」という流れになる。
日本社会のほうは高齢化がどんどん進んでいく。高齢化が進めば受診する人数、回数は増えてくるだろう。
高齢化は医師不足の方向へ働く
ところが、その一方で人口が減少していく。
仮に人口10万人当たりの医師数という捉え方をすると、先ほどの「医師不足」→「医師増加」の次の段階で今度は「医師過剰」になってしまう。
(そういう試算を実際に私はある方から見せていただいたことがある。)
人口減少は医師不足解消の方向へ働く。
福岡先生の動的平衡ではないが、
「医師不足」→「もっとひどい医師不足」→「医師不足」→「医師増加」→「医師過剰」
を流れとして厳密に検証していかないと政策として誤る可能性があるということである。
医学部の定員を増やすことは、教授などさまざまなポストの増加を意味する。
ポストというものは一度増やしてしまうとなかなか減らせないという指摘がある。
ましてや私立大学の医学部であれば強制的に減らせるものでもない。
以上のように、おそらく動的に捉えれば医師はいずれ将来的には過剰の時代になるのだろう。
すると問題は実は二つあって、一つは過剰の時代をどの時点に持ってくるかという点である。
二つには、「過剰」とはなにを持って過剰とするか、どの地域の過剰を過剰とみるかという点である。
つまり、たとえ日本全体で過剰だからといって全国に満遍なく医師がいるというわけではない。
首都圏では「過剰」でも地方では「不足」ということが十分起こりうる。
医師の地域偏在問題は意外に厄介なのである。
強制的な偏在解消は論外だ。やらせられている状態でモチベーションが保てるはずがない。
また開業医になるべく電話対応をしてもらうという仕組みも一歩間違えば過重労働になりかねない。
結果として、人口減少だけが解決策というのではではあまりに情けない。
やはり動的平衡に対応するのは、患者側も含めた社会の全体が賢くならないと難しい気がするのである。