「動的平衡」といえば福岡伸一先生である。生命についての考え方に軽くジャブを放ってくれる。
また、福岡先生の話は説得力がある。(少年時代に松戸にお住まいだったらしいので親近感もある)
動的平衡は当然われわれの社会にも当てはまる考え方だ。
現在という一時点で捉えれば、わが国は「医師不足」社会である。
そこで医学部の定員を増やそうとなるのだが、少数精鋭的育成を必要とする学部なので、その担当教授を確保するためにむしろ医療現場からベテラン医師がとられてしまう。
それでも、やがて医学生が育ってきて医師数が増え始める。
つまり、「医師不足」→「もっとひどい医師不足」→「「医師不足」→「医師増加」という流れになる。
日本社会のほうは高齢化がどんどん進んでいく。高齢化が進めば受診する人数、回数は増えてくるだろう。
高齢化は医師不足の方向へ働く
ところが、その一方で人口が減少していく。
仮に人口10万人当たりの医師数という捉え方をすると、先ほどの「医師不足」→「医師増加」の次の段階で今度は「医師過剰」になってしまう。
(そういう試算を実際に私はある方から見せていただいたことがある。)
人口減少は医師不足解消の方向へ働く。
福岡先生の動的平衡ではないが、
「医師不足」→「もっとひどい医師不足」→「医師不足」→「医師増加」→「医師過剰」
を流れとして厳密に検証していかないと政策として誤る可能性があるということである。
医学部の定員を増やすことは、教授などさまざまなポストの増加を意味する。
ポストというものは一度増やしてしまうとなかなか減らせないという指摘がある。
ましてや私立大学の医学部であれば強制的に減らせるものでもない。
以上のように、おそらく動的に捉えれば医師はいずれ将来的には過剰の時代になるのだろう。
すると問題は実は二つあって、一つは過剰の時代をどの時点に持ってくるかという点である。
二つには、「過剰」とはなにを持って過剰とするか、どの地域の過剰を過剰とみるかという点である。
つまり、たとえ日本全体で過剰だからといって全国に満遍なく医師がいるというわけではない。
首都圏では「過剰」でも地方では「不足」ということが十分起こりうる。
医師の地域偏在問題は意外に厄介なのである。
強制的な偏在解消は論外だ。やらせられている状態でモチベーションが保てるはずがない。
また開業医になるべく電話対応をしてもらうという仕組みも一歩間違えば過重労働になりかねない。
結果として、人口減少だけが解決策というのではではあまりに情けない。
やはり動的平衡に対応するのは、患者側も含めた社会の全体が賢くならないと難しい気がするのである。
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