日別アーカイブ: 2012年4月5日

「プロメテウスの罠」から

現在も朝日新聞に連載している『プロメテウスの罠』が、学研パブリッシングから出版され、ようやく読むことができました。
新聞連載が始まった当初から、この連載記事は必ず本になると思っていました。
さて、読んでみて驚くのは原子炉のメルトダウンのみならず、この国の政治の中枢のメルトダウンでした。
首相官邸の動きだけを見ていても、菅さんの人脈に相当助けられているという印象です。むしろ菅さんの判断を少々見直したくらいです。しかし、それは取りも直さず日本と言う国の統治機構が情けないほど無能だということの裏返しに他なりません。
特に、強烈な印象を受けたのは第六章「官邸の5日間」の3月12日の夕方の首相官邸5階執務室でのやり取りです。
1号機の爆発の内容が分からない段階での菅総理、福山首相補佐官、枝野官房長官のやりとりはこんな具合なのです。

菅「東電や保安院から何も報告が上がってこないのはなぜなんだ」
福山「爆発の状況が分かりません。説明のしようがありません。会見を遅らせますか」
枝野「ぼくは行くよ。テレビで爆発の映像が流れているのに、会見まで遅らせたら国民の不安が大きくなる。会見はしますよ」
考え込んでいた菅総理が言います。「うん、やってもらおう」

ここから本文を引用します。
『枝野は午後6時前から、記者会見を始めた。
「福島第一原子力発電所においてですね。原子炉そのものであるということは今のところ確認されておりませんが、何らかの爆発的事象があったということが報告されております」(略)
記者からは原子炉本体が破損しているかどうか、再三問われた。
枝野は「分析を進めている」などと答えるにとどまった。』

何もわかっていない。そういう状態で記者会見を行い、何を言われても平然と同じことを繰り返せる。この神経であればこそいくらマニフェストが総崩れになっても平然としていられるのだなと思いました。
法律では総理が原子力事故対応の責任者となります。しかし、政治家は原子力の専門家ではありません。したがって、それを補佐する官僚がしっかりしていなければならないのは言うまでもないことです。ところが、官僚の側にも専門の知識を持った人がほとんどいないのです。原子力の専門家がいない組織が原子力を推進していたことの驚きと官僚機構のいい加減さをつくづく思い知らされた一書でありました。