月別アーカイブ: 6月 2010

気になる公立病院特例債その後(第381回)

千葉県議会6月定例会が始まって気がついたのは、前議会であれほど取り上げられた医師不足問題が今議会はまったく見られないことだ。
(私自身、3月の予算委員会で医師・看護師不足を取り上げた)
6月議会では、まるで完全試合のように病院局長が答弁に立つ姿が見られない。
さて、気になるのは病院特例債その後である。
平成20年6月6日に総務省自治財政局地域企業経営企画室長名によって、平成20年度に限って医師不足によって経営が悪化し、資金繰りが苦しい病院は特別に地方債を発行してよいという通知があった。
公立病院の閉鎖が現実のものになり、住民が相当な危機感を持ったために、緊急避難的に与党が動いたのである。
もちろん、ただ経営が苦しいから借金を認めるのではなく、改革プランを策定するという条件をつけた。
この措置により、51自治体と1組合が一息つくことができ、関係者からは感謝の声が寄せられ、実現した地域の議員はこれを自分の実績の一つに加えた。
病院特例債を発行した自治体は、都道府県では沖縄県、政令市では名古屋市、神戸市、そのほか北海道の9市3町、青森県の4市4町、大阪府の5市という具合である。
試みに各市町村の財政力はさておき、病院単位で発行額の多かった10市を見てみよう。
自治体名発行予定額(億円)
泉佐野市24.9
柏原市23
高砂市22.7
徳島市21.7
奥州市18.6
留萌市18.2
大村市14.3
荒尾市
14
十和田市13.8
赤平市13.8

これらは借金による資金繰りである。決して財務体質が変わったわけではない。
改革プランが実行されているかどうかのチェックを議会が行わねばならない。
少なくとも特例債発行を実績に加えた議員はフォローするのが義務というものだろう。

とうとう増税内閣の誕生か(第380回)

昨日、ある記者から菅総理誕生の感想を尋ねられた。
こういうときは、本当のことを言ってしまっていいのか迷うのである。
迷った挙句、普通のコメントをした。したがって面白くもおかしくもなかったと見えて記事にはならなかった。
面白いコメントをしようと思えば『賞味期限切れ内閣が日付ラベルを張り替えただけ』というものだが、これはちょっと大人げがなさ過ぎる。
しかし、本当のところ、私が菅総理誕生で一番最初に思ったことは『いよいよ増税内閣の誕生か!』ということであった。
菅発言は、彼が財務大臣になってから結構あからさまだ。
たとえば、今度の予算編成では国債発行を今年度以下にするという発言。
たとえば、増税しても使い道を間違えなければ景気はよくなるという発言。
民主党のマニフェストを実行していくと、来年度は子ども手当てだけで5兆数千億円かかる。
あのアクアラインでさえ1兆数千億円の規模なので、毎年毎年3本ずつ造れる以上の財政負担となる。
さらに、米の戸別所得補償制度を他の農業や漁業や林業にも拡大する。
高齢者医療制度を廃止する。年金改革も新たに行うとなると、その予算規模は尋常ではない。
そのうえで、菅氏が言うように「本年以上の国債を発行しない」となると残された手立てはただ一つ『増税』である。
仮に消費税の値上げを考えているなら最低でも20%、もしかしたら25%も必要か?とさえ思う。
鳩山氏は4年間は消費税を上げないと発言したが、この人の発言はまったく信用できない。
あっけらかんと、「総理が交代したからあの発言は無し」で済まされてしまうだろう。
この党はいつでも勝手に発言を変えてしまうし、言っていることとやっていることがばらばらなので信用できないのだが、それでもやはり消費税については明言すべきだ。
今後も明言しないとなると、やはり『とうとう増税内閣の誕生』ということなのだろう。

空地拡大政策をどう止めるか(もう一つの成長戦略)(第379回)

千葉県企業庁の工業団地が売れない。
土地開発公社の土地も売れない。
千葉県のように首都圏に近くて、ある意味で非常に有利な土地柄なのに売れないのである。
これはもちろんひとり千葉だけの問題ではなく全国の問題だ。
武蔵野線の中吊り広告に和歌山県の工業団地の分譲広告があったのにはびっくりしたものだ。
さて、工業団地を造成する行為は言うまでもなく『投資』である。
しかし、それが売れないとなると壮大な『無駄遣い』となる。
実は、いま日経新聞社が昨年12月におこなった工業団地販売面積の調査表が手元にある。
販売未了面積のナンバー1は北海道で、実に6356ヘクタールには圧倒される。
それを見てからわが千葉県を見ると209ヘクタールなのでほっとするが、どうしてどうしてワースト9であり、10本の指に入ってしまうのである。
これをどう打開するか。
おそらく企業が進出したときの優遇措置は各県横並びだろうから、よほど注目を集める手を打たねば差別化は出来ない。
工業用水料金やブロードバンド利用料で優遇措置を設定する、千葉大学はじめ学術分野からの支援策、あるいは最後の手段としての『情』も馬鹿に出来ない。
しかし、本筋の解決策ではないことはいまさら言うまでもない。
日経新聞社の調査は日本全国に11389ヘクタールの販売未了地があるとしている。
こうなると各県各工業団地が単にトレードオフの関係であり、限られた企業を奪い合うだけの結果となる。
堂本前知事は、外資系を誘致する方針を立てていたが、考え方の基本線はここにある。
外資が来るということは少なくとも我が国企業が外国へ出て行ってしまうことはストップできる。
外資を呼び込む方策、それを実現するための財政の裏打ちが必要だ。
仮に、郵貯限度額の2000万円への引き上げがどうしても避けられないのなら、その郵貯の増額分は生きた政策に使いたい。
間違っても財投債などを買わせて訳のわからない公益法人に使うべきではない。
外資を含め地方が企業誘致をするための財源としてほしい。

回ってこそのシステム(第378回)

財務省のホームページで主計局の『我が国の財政事情』を眺めていると色々なことが想起される。
たとえばこれほどひどい借金状態になると、この先も借金が増え続けたらどうなるのだろうという疑問がある。
原田泰氏の『日本はなぜ貧しい人が多いのか』のなかに「最後の日本人にとって国債とは何か」という興味深い議論が出てくる。
人口減少によって日本人がどんどん減っていったとき、最後の日本人はすべての負債と資産の相続人となるというものである。
「1億2740万人のいる2009年では、政府と国民は異なるものと理解されるが、日本人がただ一人になる2975年では、政府と国民は一体である。」
これは非常にユニークな視点である。
「負債の額と資産の額は同じであるから、全体としてはチャラである。」
このこと自体はなんら間違っていないと思う。
問題は、『システムは回ってこそシステムたりうる』という点である。
日本人が最後の一人になるまで、何も問題なくきちんきちんと国債が購入され続け、ルールにそって(たとえ60年後であっても)償還され続ければこの議論は正しい。
しかし、いつの時点でかにきちんきちんと購入されず、きちんきちんと償還されなくなったとき、すなわちシステムが滞った瞬間に不具合が起こる。
そして、おそらくそれは日本人がそれほど少なくなっていない時代だろうと勝手に推定する。
システム滞りの原因は金利の上昇かもしれないし、国債購入資金の不足かもしれない。
もちろんシステムの滞りをその時代の英知で回避する可能性もある。
いずれにせよ、部分的に正しいことと普通に正しいこととはちょっと異なっているかなと思うのである。

3%アップでノックダウン(第377回)

財務省のホームページで主計局の『我が国の財政事情』を眺めていると色々なことが想起される。
たとえば5ページの『国及び地方の長期債務』には平成22年度末の長期債務残高は国が663兆円程度、地方が200兆円程度の計862兆円程度とある。
ちょっと気になるのは、『程度』という表現で厳密なところはよくわからないという点。
これは多分、国債には短期、長期さまざまあり、たとえば10年ものの国債がどれだけ発行されているかは分かるが、これらの返済については借り換え借り換えを繰り返しながらばらばらにして60年くらいかけて返すことになっているの厳密な計算が困難なのだろうと思われる。
(もっとも赤字国債の償還に60年かける理屈はわからない。多分、自民税調のお偉いさんがその場のノリで決めたのだろう)
もう一つの気になった点は、翌年度借換のための前倒債発行額を除くと、国が651兆円程度だとされている点。
つまり、翌年度に国債を借り換えるためと称して、本年度に前倒しして発行している国債というのがあって、それが12兆円もあるというのだ。
この理由については想像もつかない。
さて、国債というものを買ったことのない(正確には買う余裕もない)私が金利がどのくらいかも知らずに書くのも恥ずかしいが・・・
この「我が国の財政事情」の6ページに利払いと金利の推移というグラフがある。
これによれば平成22年度は637兆円の国債に対して利払い費が9.8兆円だという。
単純計算では金利は1.538%ということになる。
つまり、金利が1%上昇するごとに利払いは6.37兆円増えてゆく。
2%上昇でも金利は3.538%なので取り立てて高利というわけではない。
そしてこの場合は12兆7400億円利払いが増える。
(表組み)
年度 公債残高(兆円) 利払費(兆円)
17 527 7.0
18 532 7.0
19 541 7.4
20 546 7.6
21 600 8.4
22 637 9.8
一方、平成22年度一般会計歳出のうち政府がある程度恣意的に使えるものといえば、「公共事業」5.77兆円、「文教及び科学振興費」5.59兆円、「その他」10.04兆円くらいである。仮に防衛費を含めても合計26兆円ほどだ。
いかに何でもこれらの予算をいきなり半分にするのは乱暴な話ではあるが、国債の金利が2%上昇するだけで実際にそうせざるを得ない状況に追い込まれることになる。
金利が上がるという何ということも無いちょっとした出来事によって国や地方の予算に激震が走るのである。
政治的に実行できないことが金利によって実現したとしたら・・・・・・これは本当に皮肉な話であり、あまりにも由々しき事態である。