中野次郎著「患者漂流?もうあなたは病気になれない」 (祥伝社新書)は、読むほどに心が暗くなる本だ。医療先進国アメリカと医療後進国ニッポンのあまりの差が、いちいちもっともで反論できないのがその原因である。
本書によれば、医療を学ぶアメリカの学生で、日本の医学部生のように授業中の居眠り、私語、ケータイメールを打つことはありえないという。
アメリカでは一般大学を優秀な成績で卒業して初めて医学部や医科大学へ進学する資格を得るのだという。
そして、卒業した大学の学長推薦、牧師からの人間として優れている言う推薦、現職の医師からの医師として適格であるという推薦の3つが必要で、その上で相当難しい試験が課されて初めて入学が許される。
すでに医師になろうという覚悟を持つ出発点から相当な差がある。入学してからも2年次終了で医師国家試験(基礎医学)に合格しないと3年次へ進めない。3年次、4年次では100人の学生がいれば3年次の教官は少なくとも50人、4年次の教官は200人いるという。
昔、広島東洋カープにホプキンスというホームランバッターがいたが、彼は帰国後に医師になったと聞いた。そして広島入団のとき医師になるために今野球をやっているというような発言があったと記憶している。彼もまた米国流のエリート中のエリートだったわけである。
一方、アメリカは訴訟社会であり、ここまで徹底して学ばないと何か事故があれば、医療過誤として大変な責任を問われてしまうという事情もあるに違いない。
本書により、日本の医療に対する見方がずいぶんと変わってしまったというのが実感である。
先日、「医師不足」を訴えるNPO法人医療制度研究会の本田宏先生から「日本の出産費30万円、アメリカの出産費400万円」と伺った。そのときはそんなに差があるのかという単純な驚きであったが、本書読了後はこの13倍超の差 がすんなりと納得できた。
医師の技量、看護レベルの水準、医学教育の質的向上などのどれか一つでもアメリカの水準に追いつくことができるだろうか?
日本の医療界の改革というよりも、日本社会のシステムを変えなければならないという問題に帰着する。
考えれば考えるほど心は暗くなるのであるが、決してあきらめず、ともかく前へ進むしかないのである。
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