冬富士の遭難(第335回)

元レーサーの片山右京さんらのパーティーが富士山で遭難した。
亡くなったお二人はテントごと強風に飛ばされたのだと言う。
一般に、冬山で最も注意しなければならないのは、『風』であり、特に富士山はガイドブックの一番最初に「耐風姿勢」の取り方が解説されるほどの凄まじい強風地帯である。
当然そのことは分っていただろう。分っていてもどうしようもないのが登山なのである。
亡くなられたお二人のご冥福を心よりお祈りいたします。
私が初めて冬の八ヶ岳を登ったとき、阿弥陀岳から赤岳へ向かう鞍部の強風にはたじろいだ。
雪面に刺そうというピッケルが、風に吹き戻されて思うところに刺せない。一歩一歩進めようという足が吹き戻されてしまう。
何という悪天候かと思った。
翌日、同じところに立ったときにたまたま昨日が悪天候だったのではなく、この強風はごく当たり前の日常的なものだったことを初めて知った。
その後、北アルプス後立山の爺ガ岳での幕営では、ちゃんと教科書どおりに雪のブロックを積んでいたのに一晩中の強風に苦しめられた。
4人でテントの4隅を強風につぶされないように支え続けた。もちろん一睡もできず、いつ強風が襲ってくるか分らないので一瞬の油断も許されない。
それでも結局、新品の当時最新鋭の『メスナーテント』のポールはものの見事に2本ともへし折られてテントはつぶされた。
また、雪の斜面で簡単に風で転ばされたこともある。
そのときは200メートルほど滑落した。
大きな荷物を背負っていたので滑落停止姿勢に入れない。
ようやく停める体制になったときにはスピードがつきすぎて今度は停めることができない。
滑り落ちながら死を覚悟した。
それでも助かったのは少なくとも私の雪山における技術でも経験でもなくたんに幸運だっただけである。
冬山では「登れた」「登れなかった」は99%が「天候」と「積雪」 で決まってしまう。
技術的なものは本当は差があるのだが、「天候」と「積雪」という二大要因の前には無視できるほどの差になってしまう。
したがって、天候に恵まれて雪の状態がよければ簡単に高山に立ててしまうことがある。
それを実力と錯覚すると遭難に一直線だ。
登山における謙虚さ慎重さが試されるのが冬山なのであり、かつ謙虚で慎重だったとしても遭難がありえるのが冬山の厳しさなのである。


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