日別アーカイブ: 2009年5月23日

逃げるときは一目散に

東京女子大学教授の広瀬弘忠氏のレクチャーを受けた。
「人はなぜ逃げ遅れるのか」という避難行動のメカニズムについてである。
一番興味を覚えたのは、「世界一受けたい授業」というTV番組の中で行ったという実験だ。
これは、ある一室の円卓に被験者を座らせておき、しばらくしたところで火災報知機のベルを鳴らす。
その1分後に消防車のサイレンを流し、さらにその一分後に室内に煙が進入し始めるのだ。
その際、被験者はいつの段階で異常に気付き、避難行動をとるかという実験である。
実験のパターンの一つは、円卓に10人ほど座らせておき、何も知らない被験者はたった一人。あとの9人はこれが実験だということを了解の上でサイレンが鳴ろうが煙が入ってこようが何の反応もせず座っているというもの。
このとき被験者は、煙が部屋に充満しているにもかかわらず結局避難行動をなかなか取ろうとしなかったのである。
これは1950年代にソロモン・アッシュが行なった集団思考の実験そのものである。(マッテオ・モッテルリーニ著「世界は感情で動く」紀伊國屋書店P215)
アッシュは、長い線、短い線、中間の長さの3本の線を書いた紙を用意する。
そうして、中間の長さと同じ長さの線を別の紙に書いて、この線と同じ長さの線はどれかと尋ねる。
真ん中の線である。誰も間違うものはいない。
ところが9人の「さくら」が長い線だと答えると、たった一人の被験者は自分が間違っていたのかと思い「長い線」だと答えるのである。
見れば明らかに長い線ではありえないのに、自分の見ているものも信じられなくなってしまうのだ。
広瀬氏の実験もアッシュの実験も非常に興味深いものがある。
しかし、その実験によって導き出される結論は興味深さを通り越して後味の悪いものに他ならない。
すなわち、逃げるときは人を信用せずともかく一目散に逃げよ。