「樹雨(きさめ)」とは美しい言葉(第157回)

日本林業技術協会の大谷義一氏の文章を読んでいたときに「樹雨」と言う言葉に出会った。
「樹雨」とは、濃い霧により木々の葉や枝が濡れ、それが水滴となって落ちてくることを言う。
樹の雨とは日本人らしい繊細な美しい言葉だと思う。
ところが、この言葉は歳時記にはない。実にもったいない。
こういう美しい言葉こそ季語にふさわしいと思っていても、個人が独断で季語を決めるわけにはいかない。人口に膾炙するような名句が生まれて季語は定着する。
虚子の時代、虚子のような存在であったら、ホトトギス雑詠集の兼題に取り上げれば、全国各地から(異国からも!)句が集まり、「樹雨」ほどの言葉であればすぐに定着するだろう。
しかし、今はそのような時代でも環境でもない。
本土寺参道を歩いていたときに『参道の時雨樹雨となりにけり』という句が浮かんだ。
まだ季語になっていない以上、『時雨』を詠むしかなかった。
「樹雨」
俳句に限らず、手紙などいろいろな場面で使うことによって、美しい言葉は残したいものである。


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