政治は理屈相手ではない

最近読んだ本で非常に参考になったのは一連の行動経済学の本、たとえば「経済は感情で動く」「世界は感情で動く」(ともにマッテオ・モッテルリーニ)「予想通りに不完全」(ダン・アリエリー)や一連の福岡伸一氏の本、たとえば「生物と無生物の間」「動的平衡」である。
これらの本の共通点は、『世の中、理屈通りにはいかない』ということを微に入り細にわたって教えてくれている点である。 人の思考や行動が理屈どおりにいかないのだから、その集合体の世間が理屈通りにいくはずが無い。
たとえば、後期高齢者医療制度の導入に伴って、年金からの保険料天引き問題が起った。
天引きを決めた側の理屈は、わざわざお年寄りが金融機関へ支払いにいかなくてすむようにしたので、その方が喜ばれると思っていた。
ところが実際にはひとの年金から勝手に保険料を徴収するのはけしからんという高齢者の怒りが爆発した。
さて、地方分権への移行に伴い、本年10月から市県民税の年金天引きが始まる。
すでに一部の高齢者から、「これまで10回ないし12回で分納していたのに年6回の年金から天引きでは困る」という苦情が寄せられている。
なるほど12回に分納していた税金を6回で支払うとなれば1回当たりの支払額は2倍になる。
しかし、年金生活者にはボーナスのような臨時の収入はないので、いずれにせよ年6回振り込まれる年金から税を納めねばならない。
つまり、年金が振り込まれたときに払ってしまうか、年金が振り込まれたときには1部支払っておいて、残りを後日支払いに行くかという違いである。
もう一度繰り返すと、『支払いに行く手間が省けて6回で支払う』か、『支払う手間をかけながら一回当たり少ない金額を数多く支払うか』の違いである。
時間や交通費を考えれば、前者の方がコストが低いことは間違いないが、後期高齢者医療制度の実例もある。
後者を選びたいというのはもはや理屈の問題ではなく、理屈を超えた問題なのである。
もしかしたら前者か後者かを選ぶ権利を奪ったことが問題なのかもしれない。
このように世の中は理屈で決まらない部分が相当あり、まさにその理屈を越えた部分をどう解決していくかが政治の使命なのだろう。
昨今の行動経済学ブームを見ると、もしかすると人はますます理屈では動かないようになってきているのかもしれない。


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